日本海軍の礎を築いた男、矢田堀鴻 『群青』
『群青―日本海軍の礎を築いた男』 (文藝春秋 <2008/05> 植松三十里著)を読みました。
帯には「勝海舟のライバルだった男」とのキャッチ。 幕末から明治の初め、日本の開国、明治維新の頃、 オランダから蒸気船を買って、操船や算術を学んで、 諸外国から「日本を守るため」に、幕府の海軍を作った人なのだそうだ。 主人公=日本の海軍の礎を築いた 矢田堀鴻・・・ 私は、まったく知りませんでした。 まあ、勝海舟さえ、 もちろん名前は知っているけど、 このあたりの日本史って、小・中・高校を通して、さらっっ!としか習わなかった。 歴史のお勉強は縄文時代から始めないで、 近年のことから勉強して、遡ったほうがいいんじゃないかしらね。 この時代のいろいろなお話、 『壬生義子伝』に始まって、ここ数年、少しずつ、知ってきたけど、 半世紀生きてようやく知ることがたくさんあって、なんともお恥ずかしい。 これからの日本に生きる若い人たちには、近年~現代の歴史を、 知ったうえで歳を重ねて欲しいわ。 こういう本を、若い頃にたくさん読んで、読書感想文でも、書いたらいいわ。 いやあ、ほんと、こういう本を書く方々は、ほんと、すごいな。 心に残る言葉がたくさんありました。 主人公・矢田堀鴻(子どもの頃の名前は荒井敏)は、昌平黌の最初の講義で、 「青は藍より出でて藍より青し」(=「出藍の誉れ」)について、 多くの生徒が、 「師を越えるほど弟子が優秀であること」 という解釈をするなか、 「自分を越える弟子を育てた師こそ誉れなのではないか」 と、 まわりとは違う解釈をするのです。 そして、講師であった岩瀬先生は、 「確かに師の役目は、優秀な弟子を育てることだ。自分を越えられる人物を育ててこそ、師の面目躍如ということだろう」 と、矢田堀の解釈を認める。 このときの話から、「群青」という、この本のタイトルが生まれるのです。 これまたすばらしいんだけど、あとで書く! ちなみに、この岩瀬先生は、岩瀬忠震(ただなり)。 「黒船」のアメリカ公使=タウンゼント・ハリスとの「日米通商条約締結」という大役を果たしながら、「安政の大獄」によって永蟄居に処され、蟄居中に、「ねずみに噛まれたところが化膿して死んでしまう」という不遇の死を遂げるんだけど、 その遺言が、また、すばらしいんだ。 ねずみに噛まれて死んだなどという、武士としては情けない死に様を、家族は隠しておきたかったけれど、 「どうせ死ぬのなら、御公儀に対する批判を一身に背負ってあの世に行きたい」 「自分が嘲笑されて、それでこの国の泰平が続くならかまわぬ」 と、 それが、岩瀬先生の遺言だったんだそうだ。 「たとえ人と違っていても、かまわない」 「(自分で考えて)武士らしい生き方だと確信を持てるならそれでよい」 と。 自分の名誉より、日本の泰平を願うことこそが、「武士らしい生き方」だと、 岩瀬先生が、確信を持っていたということなのですね。 岩瀬忠震・・・ このお名前も、知りませんでした。 すばらしい「先生」だ。 「出藍の誉れ」は、 「青は藍より出でて藍より青し」のあとに、 「氷は水これを成して、しかも水より寒し」と続くのだそうで、 ほんとうの解釈は、 「人は努力しだいで、持って生まれた資質よりも、優れたものに変わりうるというたとえだ」 と、これも岩瀬先生の言葉。 知らなかった。 っていうより、「出藍の誉れ」の解釈についてなんて、深く考えたこと、なかったな。 言葉って、深い! さて、 主人公・矢田堀鴻も、 鎖国からの開国にあたって、 日本は内戦をしている場合ではないと、 「徳川の海軍」を興しながらも、、 「日本」という国が、諸藩がひとつになって国力を上げていくべきなのだと、 大きな志を持っていた人だったんだけど、 最後の将軍、慶喜に翻弄されて、 戦いを避けたがために、「逃げた海軍総裁」という汚名を着せられて後半生を生きることになります。 その、生涯を閉じる数日前に、甥の郁之助が訪ねてきて、杯を重ねるのね。 そのときの会話。 郁之助 「日本の海軍をおこし、海事総裁までつとめた叔父上の名が、このまま歴史に残らないではありませんか、私にはそれが残念で」 矢田堀 「歴史に名を残すのは、戦争をした者ばかりだ。信長公しかり、家康公しかり。戦争に反対した者は、反対しながらも戦争を止められなかったのだから、評価はされない。戦争に反対した者は、歴史に名を刻むことはないのだ。私は歴史に名を残さないことを、むしろ誇りに思う」 う~!!! かっこいい!!! なるほど、ほんとに、誇りに思っていただいて、いいよね。 作者の植松三十里さんは、 「戦いを止めようとした人、悪役にされた人、評価の低い人」に視線を向けたいのだと言う。 おもしろいな。 この方の書いたもの、もっと読んでみようっと! で、さっきの続き。 郁之助との会話。 矢田堀 「自分が藍だということも、誇りに思っている。俺が育てて世に送り出した青は大勢いる」 矢田堀鴻は、昌平黌、甲府徽典館(キテンカン:甲府勤番士の子弟のための昌平黌の分校だそうだ)、長崎海軍伝習所、軍艦操練所、沼津兵学校、静岡学問所と、多くの場所で多くの若者を育ててきたわけで、大勢の「青」がいるわけだ。 そして 郁之助 「叔父上が育てた者たちは、いわば群青ですね」 う~ん。 群青かあ。 こどもの頃、色鉛筆の「ぐんじょういろ」、濃紺ぐらいのイメージしかなかったけど、 いま、はっきり、「ぐんじょういろ」が見えてきた気がする。 こういう「歴史時代小説」っていうもの、 史実に則っている部分と、作者が作った部分と、 とくにセリフには、いろいろ、入り交じっているんだろうけれど、 素晴らしいタイトルメイクだね、「群青」。 感動しました! あ、 帯裏の言葉にも、クローズアップしておきます。 <俺たちは日本を守るために海軍をおこしたんだ> <戦争をしかけるための道具じゃないんだ> いま一度、噛みしめたいですね。 素晴らしい1冊でした!
by ririe_EX
| 2014-08-21 02:50
| Books
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